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『アイデアのつくり方』は、後半の実践方法「5つの段階」こそが大切。

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少し前に Q&Aサイト Quora で、こんな質問に答えた。


「あまり長くなく、役に立つ本」と聞かれて、本棚を眺め、ぱっと手に取ったのは、ジェームス・W・ヤング氏の『アイデアのつくり方』だった。

超ロングセラー『アイデアのつくり方』

本文は約60ページ、解説や訳者あとがきを含めても100ページ強という薄い本。
にもかかわらず、いまも版を重ねて読まれている超ロングセラーである(僕が持っているのは 2004年7月28日 初版第48刷だが、いまは何刷なんだろう?)

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帯には「60分で読めるけれど一生あなたを離さない本」とある

アイデアとは既存の要素の新しい組み合わせ

むかし読んで強く印象に残っているのはこのフレーズだ。

アイデアとは既存の要素の新しい組み合わせ以外の何物ものでもない (p.28)

これは、本書が示した重要な1つの原理であり、みなが「あぁ〜、確かにそうだよね」と頷く部分である。(事実、ネット上の書評や感想にも多くとりあげられている)


一方、今回読み返したところ、このフレーズの続きにこそ実践につながる内容が書かれていることに気がついた。


「アイデアのつくり方」を知識としてだけでなく、実践の書として活かすためには、この後こそが大切だと思う。その内容は…。

組み合わせを作りだすのは、事物の関連性を見つけ出す才能

2つめの原理として書かれているのはこちら。

既存の要素を新しい1つの組み合わせに導く才能は、事物の関連性をみつけ出す才能に依存するところが大きい(p.28)

事物の関連性をみつけ出すことが大切だ、という主張は、1つめの原理にも絡んでくる。


著者ヤング氏は広告業界で活躍した人物で、広告の反響を大きく変えるのが「情動的シンボル」としての言葉であることに気がついた。広告で「醸し出したいと思っている情緒」を想起させるために、何に喩えればよいか、見た人に関連性を感じてもらう言葉をどうもってくるか、と問い続けてきたのだろう。本文中にも「見出しの中のたった1つの言葉を変更することによって、その広告の反響を50%も変えてしまうことがありうる」とある。

氏は、同時代を生きる若手広告マンに対しても、「事実と事実の間の関連性を探ろうとする習性をもつ」ことを勧めており、その修練には社会科学を勉強するのがよいと説いている。


そこで登場するのが、「アイデアのつくり方」の5つの段階である。

「アイデアのつくり方」の5つの段階

述べられているのは、アイデアを作り出すための「心」の技術であり、それに即した実践例だ。

アイデアの作成に当って私たちの心は例えばフォードの車が製造される方法と全く同じ一定の明確な方法に従うものだ (略)
この心の技術は5つの段階を経過してはたらく。(略)大切なことはこれら5つの段階の関連性を認め、この5つの段階を私達の心は一定の順序で通り抜けるという事実を把握することである。(p.32-33)

なお、5つの段階の名称について、日本語では「これ!」という決定版がない。本文途中での記述内容とまとめでも少しずつ違うし、竹内均さんの解説内の文言も説明の流れから本文とはややズレを感じる*1

以下では、参考までに原著の英語表現も記載したうえで、本文内の記述を中心に実践方法を記録しておきたい。

第1段階:資料の収集

the gathering of raw materials - both the materials of your immediate problem and the materials which from a constant enrichment of your store of general knowledge.

集めてこなければいけない資料には2種類あるそうだ。広告を例にとると次のような区分けになる。

  • 特殊資料:製品と、それを売りたいと想定する人々(=消費者)についての資料
  • 一般的資料:人生と この世の種々様々な出来事についての一般的知識

ヤング氏は、「特殊資料」の収集には 3インチ×5インチのカードを使い、集めてきた特殊な知識を項目ごとにカードに記入する方法を提案している。

いまなら Evernote に個別にノートを作っていき、分類のためにのタグを貼っておく感じだろうか。ある程度のまとまりを、ノートブックとして整理するのもよいかもしれない。


「一般的資料」については、スクラップ・ブックやファイルに貯えることが推奨されている。ためていくのは、新聞の切り抜き、出版物の記事、自分が体験した事柄、本を読んで浮かんだ疑問 など。推理小説シャーロック・ホームズを例に挙げて、「様々な角度から何度も索引分類して暇つぶしをする」ことを勧めている。

この記述を読んで思い浮かんだのが、Twitter へのつぶやきだ。Twilog などのサービスを活用して後から眺めやすくするのもよいかもしれない。

第2段階:資料の咀嚼

the working over of these materials in your mind.

"work over" は「やり直す、つくりなおす」の意味。

この段階では「集めてきた資料を心の触覚で1つ1つ触ってみる」と書かれている。1つの事実を「あっちに向けてみたりこっちに向けてみたり、ちがった光のもとで眺めてみたり」して意味を探し求めるそうだ。「意味の声に耳をかたむける」という記述もある。(ん〜、どうするのだ!?)

また、関係を探すために、「2つの事実を一緒に並べてみてどうすれば噛み合うか」を調べたり、「ジグソー・パズルのようにきちんと組み合わされてまとまるか」を考える。簡単ではないだろう。放心状態になる、という記述もある(笑)。

これらの結果、モヤモヤとでも 仮の(あるいは部分的な)アイデアが降りてきたら、その断片をまたカードに書いて残していく。部分的思考なので嫌気が起きたり、絶望状態に陥るかもしれないが、次々と記録だけはしておく。これが次の第3段階へ至る準備らしい。

第3段階:孵化段階(問題の放棄)

the incubating stage, where you let something beside the conscious mind do the work of synthesis

第2段階で苦しみきっていれば、この段階では直接的な努力はない、らしい。

むしろ、「問題を全く放棄」し、「できるだけ完全にこの問題を心の外にほうり出してしまう」のがよい。「問題を無意識の心に移し」、「眠っている間にそれ(無意識)が勝手にはたらくのにまかせておく」ようにすべきと書かれている。

その代わり、「自分の想像力や感情を刺激するものに心を移す」ことが推奨されている。音楽、観劇、映画、詩、探偵小説を楽しむのがおすすめだ。

第4段階:アイデアの誕生(ユーレカ!)

the actual birth of the Idea - the "Eureka! I have it" stage.

ヤング氏は、第3段階まででしっかりと収集・咀嚼・放棄していれば、第4段階はまず確実に経験できる、と力強く書いている。

事実、この部分の記述は少ない。ひげを剃っている時、風呂に入っている時、朝まだ眼がさめきっていない時 などなど、到来を最も期待していない時にアイデアが訪れる、という記述だ。

「つねにそれを考えていること」という節タイトルがついているが、これは第2〜第4段階を通じた記述のように感じる。この第4段階ではただ信じて待つことに尽きるのではないだろうか。

第5段階:アイデアの具体化・展開(可能性を信じ、強く育てる)

the final shaping and development of this idea to practical usefulness.

アイデア作成過程の最後の部分、今井茂雄さんの日本語訳でいくつか印象的なフレーズがあった(太字は追加で施したもの)。

諸君は生まれたばかりの可愛いアイデアをこの現実の世界の中に連れ出さねばならない

アイデアを、それが実際に力を発揮しなければならない場である現実の過酷な条件とか せちがらさ といったものに適合させるためには忍耐づよく種々たくさんな手をそれに加える必要がある

この段階までやってきて自分のアイデアを胸の底にしまいこんでしまうような誤は犯さないようにして頂きたい。理解ある人々の批判を仰ぐことである。

良いアイデアというのはいってみれば自分で成長する性質を持っている(略)良いアイデアはそれをみる人々を刺激するので、その人々がこのアイデアに手をかしてくれるのだ。


第4段階までに生まれたアイデアが花開くためには、この最後の5段階が大切なわけだけれど、「具体化・展開」や「チェック」という言葉ではうまく表現できていないように感じた。

上に引用したフレーズのように、生まれたアイデアを自身の分身として慈しみつつ、厳しく強く育てていこうという愛情を感じるのだ。

そんなわけで、第5段階に僕が名づけるのなら、「アイデアの持つ可能性を信じ、強く育てる」としておきたい

まとめ

以上、『アイデアのつくり方』(原題 "A Technique for Producing Ideas: the simple five-step formula anyone can use to be more creative in business & in life")を再読して心にひっかかった後半部分、アイデア生成の5段階 と その実践方法について書いてみた。

今の時代、アイデアを扱うためのツールはさまざまあるはずだし、組み合わせのもととなる一般的資料はヤング氏の時代と比べ物にならないほど簡単に入手できるようになっている。

そこで意識すべきなのは、マイテーマである特殊資料をどんな風に設定し、どれぐらい能動的に集めていくかだろう。さらには、生まれたアイデアの種の可能性を信じ、愛情をもって育て、批判をおそれず世の中に送り出していくことが大切。実践していきたい。


本投稿のきっかけとなった Quora質問との出逢いは、いま思えば第4段階の「Eureka!」だったのかも(笑)


アイデアのつくり方

アイデアのつくり方

*1:Wikipedia日本語版では、2019年2月現在 竹内均さん解説による5段階名称が使われている→こちら