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反応に弱い生き物? 書き手>読み手? 〜『ネットコミュニティの設計と力』より

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はてな広報ブログの記事で知り、テーマがドンピシャだったので即買いしたのが『ネットコミュニティの設計と力』。


豪華な執筆陣の顔ぶれをみて楽しみに読んだら、期待していた以上に面白くて、テーマに関係しそうな人にオススメしている。今後、日本のコミュニティマネージャー必読の書になっていきそうな予感。


Kindle版 もあり)

第1部  人間の集まるコミュニティを設計する
 序章  日本のインターネットコミュニティ  …近藤 淳也 著
 第1章 ソーシャルメディアの発生と進化  …yomoyomo 著
 第2章 恋愛論的コミュニティサイト運営術  …Hagex 著
 第3章 人が集まるコミュニティのつくり方  …古川 健介 著
     
第2部  私たちのコミュニティはどこへ向かうのか?
 第4章 サル学から考える人間のコミュニティの未来  …山極 寿一 著
 第5章 情報技術とリアルコミュニティ  …広井 良典 著
 第6章 コミュニティと人の力  …近藤 淳也 著
 

【近藤 淳也 監修】ネットコミュニティの設計と力 〜つながる私たちの時代〜:::角川インターネット講座


読みどころが多いのですべてはお伝えできないが、本エントリでは個人的にツボにはまった第2章(恋愛論的コミュニティサイト運営術)と第3章(人が集まるコミュニティのつくり方)から1箇所ずつご紹介したい。

第2章 恋愛論的コミュニティサイト運営術 より

夢中にさせ、メロメロにさせる

第2章のページをめくると、いきなり「コミュニティサイト運営と恋愛は同じである」という Hagex さん(id:hagex) の主張が現れる。一瞬なんのことだろう、と思ったが次の記述で合点がいった。

コミュニティサービスとユーザーの関係は、恋人同士の関係と似ているためだ。(略)「高機能」や「ユーザビリティ」だけでは、相手の心を掴むことはできない。それらは恋愛する2人にとって「おまけ」であって「本質」ではないのだ。(p.068)


人が使える時間は限られている。だから、コミュニティへの参加も時間の奪い合いになってしまう。コミュニティ運営に携わる者としては、いかに「本命」として参加(閲覧、投稿)してもらえるかが鍵となる。


このために Hagex さんが大切だとしてあげたのが、「情報」と「反応」の2つ。

反応に弱い生き物

特に「反応」についてはこんな印象的なフレーズで紹介されていた。

人間は社会的な生き物なので、他人の反応に弱い生き物である。(略)
コミュニティサイトを運営していく上で、「自分の投稿に対するレスポンスの速さ・多さ」はとても重要だ。賛成であれ反対であれ、自分の書き込みが「承認される」ことは快感なのだ。(p.078-079)


これは、利用者としても運用者の立場でもよくわかる。やはり自分の投稿への反応があると嬉しいし、その場に集まる人たちとの関係性が深まり、次の投稿へのモチベーションにもなる。

運営する立場としては、反応よく動ける仕組みや体制をつくること、あるいは、反応できる時間帯や時期を逆算してイベントなどを仕掛けていくことにする必要がありそうだ。

第3章 人が集まるコミュニティのつくり方 より

こちらは、nanapi 古川健介さん(けんすうさん)が執筆した章。

いくつものサービスを立ち上げてきたけんすうさんが、その経験をもとに「人が集まるコミュニティをつくるにはどのような仕組みが必要なのか」をフェーズごとに語ってくれている。ちなみに、コミュニティのフェーズとは「設計期間」「立ち上げ期間」「拡大期間」の3つである。

書き手重視か、読み手重視か

僕の目がとまったのは、「立ち上げ期間」の解説で登場する次の問いかけだ。

まずは、「書き手」と「読み手」、どちらのユーザーを優先するかという点である。ネットコミュニティをつくる難易度が高いひとつの理由が「ユーザーがいないと投稿されない」「投稿がないとユーザーが集まらない」という、にわとりが先か、卵が先か、という状態からスタートしないといけないからだ。(p.110)


過去に僕が関わったネットコミュニティでは、ほとんど「書き手」を重視してきた。社内のQ&Aコミュニティでは「質問はノウハウを引き出す価値ある行為だ」と言い続けてきたし、業務用のリンク集づくりも書き手を公募した。部署でのリレーメッセージ企画では当番犬(人形だけど 笑)を用意してリアルに移動させたし、今も運営に関わっているコミュニティでは月替り、週替りで書き込む人の顔ぶれが変わるようなローテーションを組んだりもしている…。


けんすうさんの意見も同じく、「書き手」優先だった。

コミュニティの立ち上げ期においては、とにかく書き手を優先させるようにしておくのが成功確率が高いと考えている。(略)読み手のための機能ではなくて、書き手のための機能を充実させ、書きたいと思っているユーザー向けにサービスをつくっていくのである。(p.110-111)


食べログやクックパッドはまさに書き手優先の流れで成功した、と分析されている。一方、nanapiは当初読み手重視のサービスにしたため書き手が集まらず「ネットコミュニティのつくり方としては、失敗例である」と潔く書かれていてびっくり。(実際には、「メディア型のサービスにシフトさせ」ることで、違う形での成功を目指す方針に変更した、というのが正解かも)

とはいえ、過ぎたるは…

ちなみに、この章で気になったのが、書き手重視はよいものの、あまりに利用者の熱量を上げすぎてしまうとよくない、という点。

こんな風に書かれている。

コミュニケーションはある種の中毒性があるのである。コミュニティには粘着性が必要であり、ハマってもらう必要はあるが、ハマらせすぎてしまうと、中毒になり、中毒は結果として心身を壊してしまう。(p.115)


また、拡大期間フェーズにおいては、一転して「読み手」を重視する方針をとる、というのもなるほどなぁと感じた。

まとめ

本書では、他にも次のような気になるキーワードが登場する。

  • コミュニティに必要な場所性(序章)
  • アソシエーションとコミュニティ(第1章)
  • メッセージングこそ次の本命(第1章)
  • 未知の同好の士を獲得する情報発信のイノベーション(第1章)
  • ネットコミュニケーションの5要素(第2章)
  • マンネリ化を防ぐための5箇条(第2章)
  • コミュニティサイトの普遍的なゴール(第2章)
  • 質問をする人は少なく、質問に対して答えたい人は無数にいる(第3章)
  • 「古参」問題の解決(第3章)
  • 「家族」と「コミュニティ」という、編成原理の異なるふたつの集団(第4章)
  • ダンバー数160(第4章)
  • 視覚中心のコミュニティと同質性(第4章)
  • 「農村型コミュニティ」と「都市型コミュニティ」(第5章)
  • 地域密着人口増加の時代(第5章)
  • 身体性・場所性・ローカル性への着陸(第5章)
  • 「コミュニティ形成力」と経営能力は必ずしも一致するものではない(第6章)
  • リアルとネットのハイブリッド(第6章)


もうすこしじっくり読み解きたいので、コミュニティマネージャー読書会の課題図書にしてみようかと考え中。(実施の際にはまた投稿しますオンライン読書会、始めました



(書籍版はこちら。値段的にはKindle版がずいぶんお得!)


執筆陣の関連リンク

執筆者のみなさんについて、本書テーマに関係しそうな情報を集めてみた。

近藤淳也さん(監修、第6章)

近藤さんが、本書の構成をどのように組み立てたか、各執筆者にどんな想いでお願いしたか等の話を書いておられる。本書を手に入れたら、ぜひあわせてどうぞ。

yomoyomoさん(第1章)

本書へ寄稿依頼されたときの話や、角川インターネット講座シリーズの他ラインナップについて、あと原稿提出時の裏話など楽しめた。

Hagexさん(第2章)

Hagexさんのはてな上でのブログはこちら。

(紅茶・お菓子・ほっこり? 笑)


本書の「恋愛論的…」とは直接関係なさそうだけど、ネットウォッチの成果がまとめられた著書。

古川健介さん(第3章)

本エントリのタイトルにもなった「書き手」「読み手」問題について、けんすうさんが以前Mediumに書いた文章。

山極寿一さん(第4章)

Eテレ「SWITCHインタビュー達人達」で、探検家で医師の関野吉晴さんと対談しておられた(2015年8月15日放送回)


この中で、人間が発達した理由を「食物の共有」「共同保育」と説明しておられたのが印象的。「あらゆる生活がともにある」という心が、他の霊長類との違いなのだ、と。

広井良典さん(第5章)

以前こちらの本を読み、コミュニティそのものについて様々な視点から考える材料をもらえた。

本書で書かれた「身体性・場所性・ローカル性への着陸」あたりはその後出版された、こちらの本が詳しそう(僕は未読ですが…)。


追記:本書についての関連投稿