人間が生涯をかけて最も強く追い求め欲しがるものはなにか。詰まるところはただ一筋、自分が世間から少しでも高く認められる評価である。(中略)人間は息をひきとるまで生涯をかけて、私を認めてくれ、私を認めてくれと、声なき声で叫びつづける可憐な生き物なのだと思われる。
(中略)
藝術にかぎらず人間の為すところ願うところのすべて、それは自分が成就した事柄の見せびらかしである。頼まれもせぬのに誰が人のため辛い苦労をするものか。すべては己れをむりやり世に押しだして、さあ注目してくれ仰ぎ見てくれと讃嘆を強制する我意(エゴイズム)である。政治家が権力をもって人間の行動を操作するのと同じように、藝術家や思想家や宗教家は表現力をもって人間の精神を支配する。この世に無視の貢献などありえない。すべては支配する者との相関関係で進行している。美を産み出す精進は、実は評判の波を広げたい名声餓鬼の執念なのである。(p.41-42)
カーネギーの『人を動かす』とも近い人間観で、僕としてはすんなりと賛同できる。
それにしても、「すべては見せびらかし」と言い切っているところが気持ちよいなぁ。
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今は文庫版もあるようだ。
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