何気なくテレビをつけると、ごく普通の家庭のキッチンに、コック姿をした30代前半とおぼしき女性が立っている姿が目に入った。20歳の頃、弁護士を目指すために通っていた大学をやめ、家族の反対を押し切って料理人になる道を選んだらしく、何年ぶりかに実家に帰ってきたのだそうだ。
つくっていたのはパスタ。お父さん、お母さんに成長した自分を知ってもらうために心をこめた一品。食べながら思わず涙ぐんでいたお父さんには十分に伝わったように思う。
十何年かのわだかまりが溶け、あたたかな会話の時間が流れたあと、娘さんの帰り間際に言ったお父さんの言葉がいかしていた。
俺は母さんの料理はもう何十年も食べている。
けど、この歳になってもぜんぜん飽きない。
お前もそんな料理人になれよ。
ほんもののプロは、実はすぐ近くにいるのかもしれない。