僕は22歳まで京都で過ごした。
大学こそ大阪まで通ったが、小・中・高はすべて徒歩圏。あらためて、せまい世界に生きていたなぁと思う。
高校は、実家から徒歩10分のところにあった真言宗系の学校に通った。毎月21日の空海(弘法大師)の月命日を御影供(みえく)と呼び、この日は通常の授業はなくクラス全員で校舎のすぐ隣にある東寺(教王護国寺)で般若心経をとなえた。正直なところ、高校時代にはその意味など深く気にも留めることなく、ただただ経文を目で追いながら口ずさんでいた。なんとまあ信心の浅い学生だったのだろう。
以来20年近く経ったわけだが、ここ最近になって「般若心経って、いったいどんなことが書かれているのだろう」と気になってきた。
昨日読んだ『自由訳 般若心経』では、この疑問に新井満さんが分かりやすく答えてくれている。
経文の中心となる概念は「空」(くう)。これを伝えるために、新井さんは「色即是空 空即是色」というフレーズの訳に写真を含めて32ページをかけている(まさに自由訳!)。こんな感じだ。
観自在菩薩は、話をつづけた。
「この世に存在する形あるものとは、
喩えて言えば、見なさい、
あの大空に浮かんだ雲のようなものなのだ。
雲は刻々とその姿を変える。そうして、
いつのまにか消えてなくなってしまう。
雲がいつまでも同じ形のまま浮かんでいる
などということがありえないように、
この世に存在する形あるものすべてに、
永遠不変などということはありえないのだ。
ここから、
- 滅びがあるからこその誕生
- 生命のつながり
- 宇宙のつながり
- 人生の意味
- 自分だけの役割
というように話が展開されていく。読んでいて、胸のなかを清清しい気持ちが広がっていくのを感じた。こんな体験はめったにない。
巻末に収められている「母が遺してくれたもの」という新井さんの文章にもグッとくるものがあり、思わず涙腺がゆるんだ。
なんども読み返す大切な一冊になりそう。
- 作者: 新井満
- 出版社/メーカー: 朝日新聞社
- 発売日: 2005/12
- メディア: 単行本
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追伸
空即是色
この世に存在する形あるものすべてがつかのまであるからこそ、
ついさっきまで存在していたものが滅び去った次の瞬間、
またぞろ様々なものが、
この世に生じてくるのだよ。
あたかも何もなかったあの大空に、
再び様々な形をした雲が、
湧き出てくるようにね…
合掌。