いまから18年ほど前、男子高を卒業して大学生になったばかりの僕は、なぜかまた男ばかりの世界−男声合唱団−に入部してしまった。別にその気があったわけではない。でも、なんだかその濃密な世界は心地よかった。
僕の担当パートは、全4パート中の低音から数えて2つ目、高音から数えると3番目の Baritone(バリトン)。声域的にはもっともノーマルなパートなのだが、そこにいる人間は同期・先輩・後輩ともにかなりの個性派ぞろい。指揮をしていたN先輩もそんななかの一人。
N先輩がお気に入りだった曲に「秋のピエロ」がある。堀口大學作詞、清水脩作曲の男声合唱組曲「月光とピエロ」の2曲目として収録されている。
泣き笑いしてわがピエロ 泣き笑いしてわがピエロ
秋じゃ!秋じゃ! 秋じゃ!秋じゃ!と歌うなりO(オー)の形の口をして Oの形の口をして
秋じゃ!秋じゃ! 秋じゃ!秋じゃ!と歌うなり月のようなる白粉の 顔が涙を流すなり
身すぎ世すぎの是非もなく おどけたれどもわがピエロ ピエロ ピエロ月のようなる白粉の 顔が涙を流すなり
身すぎ世すぎの是非もなく おどけたれどもわがピエロ ピエロ ピエロ秋はしみじみ身に滲みて 秋はしみじみ身に滲みて
真実なみだを流すなり 真実なみだを流すなり
物悲しい雰囲気の詩で、曲も厳粛な感じ。
けど、N先輩が指揮するこの曲は僕自身すごく好きな曲だった。
どうかご冥福を…。