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『未来食堂ができるまで』読了メモ:「コミュニティ作りをしない」からこそ惹きつけられる場所

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あなたの“ふつう”をあつらえます

このフレーズをコンセプトに掲げているのが、東京・神保町にある未来食堂。本ブログを読んでいるあなたなら、耳にしたことがあるんじゃないだろうか。

miraishokudo.com

店主・小林せかいさんが理学部数学科卒のエンジニアだった(日本IBMとクックパッドで6年間勤務)という経歴面や、「あつらえ」「まかない」「ただめし」などのユニークな仕組み面、あるいは、ほぼ一人で運営しているのにランチ4回転以上(MAX 7回転?)の高効率オペレーション面などなど、いろんな切り口でメディアに多数登場している。

2015年9月に開店してから気になっていたのだが、先日ようやく食事をしに行くことができた。

実際に体験してみると、聞きしに勝る効率的オペレーションと、おいしい食事(この日は黒豆入り炊き込みご飯&サバ味噌定食)とお茶菓子、なつかしい感じのお椀・お皿・調度品・小物など、僕はもちろん一緒に行った妻も大満足! 店主せかいさんとも少しお話ができた。手が空いたときには厨房内でも読書をし、凛とした雰囲気を漂わせるせかいさんだが、本書の話題になるとにこやかに笑ってくれた。

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(未来食堂前の看板と100円割引券)


そんなせかいさんの初の著書『未来食堂ができるまで』が今年9月に出版された。これがまたとても面白い。

書籍『未来食堂ができるまで』

せかいさんは、お店の構想段階から「未来食堂日記」というブログを開設している。過去記事を読むと、物件もまだ決まっていない段階で、名前やコンセプトがはっきりとイメージされ、アウトプットされていたことにまず驚く。

今回出版された『未来食堂ができるまで』には、その名の通り、開店までの準備状況や、他店での修行の日々、事業計画書、さらには開店後の月次決算などが収録されている。前述のブログ投稿記事が再編集されたうえ、書き下ろし文(食堂をやろうと決めた背景や ミニコラム4本)を追加して書籍化されたものだ。

「あつらえ」「まかない」「ただめし」に込められた想いや、高効率を実現するための工夫や考えなどがぎっしり詰まっており、カウンター12席しかないこの定食屋が全国区で知られるようになったのも必然だったんだなと思える。「飲食業を始めよう!」と考えている人はもちろん、他のビジネスに携わっている人にも大いに参考になるはず。


一方、コミュニティマネジメントに興味がある僕は、読みながら「未来食堂の魅力はどこにあるのだろう?」ということが気になった。

「コミュニティ作りをしない」魅力

せかいさんは、本書内で コミュニティ について次のように語っている。

未来食堂では「他者と出会える楽しい空間だ」ということで、ファンになってくださる方がたくさんいらっしゃいます。が、未来食堂としては決してコミュニティや場作りが本質ではなく、それを目的とすると瞬く間に別の店になってしまうと考えています。(p.207)


また、「コミュニティ作り」についてはこんな言葉もある。

場やコミュニティという言葉は、「多数人が集まった存在」という意味かと思います。その、そういうのがね、必要ないからです。大勢の中の誰かひとりとして、あなたが埋もれてしまうことが決してないからです。(略)ただ来て、ただ座って、ご飯を食べていたらそれでいいと思うからです。あなたがどこの誰かとか、フラットな意味でどうでもいいし、ましてやそれを分類して束ねる(コミュニティを作る)ことはまったく考えていません。未来食堂と「あなた」がいる。どこまでも、そのミニマムな関係性を大切にしたいと考えているからです。 (p.208)

※該当する日記の原文はこちら


冒頭に紹介したコンセプトのように、徹底的に「あなた」との1対1の関係が重視されている。このあなたとの関係を大切にしつづけたことで、結果的にファンや応援する人たちが増えているのだと思う。



とはいえ、「まかないさんありがとうの日」や「さしいれ」というのはコミュニティ的だよなぁと考えていたところ、こんな記述があった。

自分としては、まかないは「お店のファンクラブ」や「会社を超えた第3コミュニティ」みたいな今流行のコンテキストとしてはまったく捉えていません。あくまでも、一文無しになったり、そんなどうしようもないときに未来食堂のことを思い出して欲しいという想いから来ています。(p.180)

※該当する日記の原文はこちら


未来食堂が目指すのは「誰もが受け入れられ、誰もがふさわしい場所」を作ることだという。まかないさんへの対応についても、この想いが背景にあるにちがいない。


他にも、本書には書かれていないが、いまは「サロン18禁」という 18歳未満の子どもたちのための会員制サロン活動 も始まっている*1


コミュニティ作りをしないと明言しつつも、じょじょにコミュニティ的な活動が生まれていることも興味深い。読めば読むほど未来食堂を詳しく知りたくなる本だった。

おわりに

コミュニティ作りをしない未来食堂は、コミュニティマネージャーと呼ばれる役割の人にとって、逆説的に学ぶことが多そうだ。

  • その「場」は、誰のため&何のためにあるのか
  • 来てくれる「あなた」のために何を提供するのか/しないのか
  • できあがったファンコミュニティにどう関わるのか


未来食堂が気になった方は、本書を読み、実際に未来食堂を訪ねてみてほしい。
(ちなみに、『未来食堂ができるまで』はお店でも絶賛販売中)


本エントリをきっかけに、一人でも多くの人と未来食堂やコミュニティについても語り合えたらありがたい。

オンライン読書会、始めました

そんなわけで、facebook上で『未来食堂ができるまで』のオンライン読書会を開催しています(期間:2016年10月1日〜31日)。ご興味があればご参加ください。

【CMC読書会】~コミュニティ運営のヒントを本から学ぼう!~
https://www.facebook.com/groups/CMCbookclub/

追記:リアル読書会、実施します → 実施しました!

本投稿がきっかけとなり、未来食堂を貸し切っての読書会を12月17日に開催することとなりました(しかもダブルヘッダー!)。


【満員御礼】よみかいin未来食堂【壱】­『ただめしを食べさせる食堂が今日も黒字­の理由』読書会 | Meetup

よみかいin未来食堂【弐】「コミュマネ本」プレゼン&プレゼント大会 | Meetup


ぜひご参加ください。

追記:読書会、開催しました!

関連情報

未来食堂 関連リンク

未来食堂は、Web媒体、紙媒体、テレビなど各種メディアで紹介されています。こちらがその一覧。


未来食堂について映像で知りたい方は、WBSで取り上げられたときの動画を。(お店の様子や「まかない」「あつらえ」が5分で分かります)


こちらは、今月初めに公開された ascii.jp の記事。せかいさんの効率化思考の道筋が解説されている。(将棋のように「手」という単位で説明されてて面白かった)



本文中で触れたブログ「未来食堂日記」はこちら。

過去記事紹介

西国分寺のクルミドコーヒー店主 影山知明さんも「目の前の人を大事にする。」と話されていて、なんだか共通点を感じている。昨年実施した読書会の模様がこちら。

*1:「18禁」といっても、18歳以上禁止という逆張り。「飲み物:黒/白/ハーフ(珈琲/牛乳/珈琲牛乳)」のセンスに笑った!